2025年10月19日日曜日

第12回 顧客からのクレーム対応の法的位置づけ 悪質クレーマー対策含む

 こんにちは。有限会社金城企画 代表取締役の荒瀧です。当社はまもなく創業50周年を迎えます。これまで多くの企業様とともに、リスクマネジメントの現場を支えてまいりました。

さて、前回は「従業員のSNS炎上対策」について、リスクマネジメントの視点から解説しました。情報発信が日常となった今、店舗経営者様にとって非常に重要なテーマであったかと存じます。

今回は、飲食店経営における日常的なリスクの一つ、「顧客からのクレーム対応の法的位置づけ 悪質クレーマー対策含む」に焦点を当てます。「お客様は神様」という言葉がありますが、全てのクレームが正当とは限りません。特に近年増加している**悪質クレーマー(カスタマーハラスメント、通称カスハラ)**への対応は、従業員の安全と店舗の平穏を守るために、法的な視点をもって毅然と行う必要があります。

1.クレーム対応の基本と法的位置づけ

正当なクレームと悪質なクレームを見極めることが、適切な対応の第一歩です。

(1)正当なクレームへの対応

提供した商品やサービスに落ち度があった場合、例えば異物混入、食中毒、接客ミスなど、お客様に損害や不快な思いをさせてしまった場合は、企業として債務不履行不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法第415条、第709条など)。

  • ネクストアクション:

    1. 事実確認と誠実な謝罪(非を認めるのは事実確認後): まずはお客様の話を遮らずに傾聴し、冷静に事実関係を正確に記録します。

    2. 迅速な対応と解決策の提示: 法的責任の範囲を理解した上で、交換、返金、治療費の負担など、できる限りの解決策を迅速に提示します。この際、道義的な謝罪と法的な責任を安易に混同しないことが肝要です。

(2)悪質クレーム(カスハラ)の法的位置づけ

悪質なクレームとは、正当な理由がない要求や、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの(暴言、威圧的な言動、長時間拘束など)を指します。これらは、正当なクレームではなく、犯罪行為不法行為に該当する可能性があります。

悪質行為の例該当する可能性のある法令
大声での恫喝、暴言、暴力暴行罪、脅迫罪、強要罪(刑法)
長時間の居座り、執拗な電話・訪問威力業務妨害罪(刑法)、不退去罪(刑法)
根拠のない金銭要求、土下座要求恐喝罪(刑法)、強要罪(刑法)
店舗施設や備品の損壊器物損壊罪(刑法)、不法行為(民法)

2.悪質クレーマー(カスハラ)対策のネクストアクション

悪質クレーマーに対しては、「絶対に屈しない」という毅然とした態度と、組織的な対応が不可欠です。

(1)対応ルールの明確化と周知徹底

「お客様は神様」という考えから脱却し、どこからが悪質クレーム(カスハラ)にあたるのか、対応の**「線引き」**を明確にすることが重要です。

  • ネクストアクション1:

    • マニュアル整備: 長時間・複数回・不当な要求・暴言が発生した場合の対応ルール(**「即答しない」「複数人で対応する」「最終責任者以外は金銭的合意をしない」**など)を具体的に定める。

    • 従業員への周知: 「従業員は店舗が守る」という姿勢を明確に示し、マニュアルに基づいた対応を徹底させます。

(2)証拠の記録と外部機関への連携

悪質クレームは、法的措置を視野に入れた対応が必要です。そのためには、客観的な証拠を保全することが必須となります。

  • ネクストアクション2:

    • 記録の徹底: クレームの経緯、日時、要求内容、相手の言動(暴言、恫喝など)を詳細に記録します。可能であれば録音も検討します(相手に断りを入れることが望ましいですが、緊急時や危険回避のために、やむを得ない場合は証拠保全を優先することも考慮)。

    • 証拠保全: 店内の防犯カメラ映像を保存します。

    • 毅然とした拒否と法的措置の示唆: 不当な要求には明確に「NO」を伝え、要求が続いたり、威圧行為がエスカレートしたりする場合は、**「業務に支障が出ますので、これ以上の要求は弁護士を通じて対応させていただきます」**など、法的措置を辞さない姿勢を伝える。

(3)警察への通報

生命や身体に危険が及ぶ場合、または業務に重大な支障をきたす場合は、躊躇なく警察に通報すべきです。

  • ネクストアクション3:

    • 即座に通報: 暴行、脅迫、器物損壊、退去要求に応じない居座りなど、犯罪行為に該当する可能性がある場合は、110番通報をためらわない。

    • 通報時の伝え方: 「お客様とのトラブルで、退去を求めても応じません」「大声で恫喝され、業務に支障が出ています」など、現在の状況と被害の内容を簡潔に伝えます。

3.リスクマネジメントの視点

クレーム対応は、単なる事後処理ではありません。それは従業員を守り、店舗の信用を維持するための重要なリスクマネジメントです。悪質クレーマーへの対応で従業員が疲弊し、離職につながることは、飲食店経営にとって大きな損失です。

当社では、飲食店経営者様が直面し得る様々なリスクを洗い出し、それに対する具体的な対策と手順をまとめたリスクマップ作成のお手伝いも行っております。クレーム対応の「線引き」と「組織的な対応ルール」の明確化は、従業員とお店を守る上で不可欠です。ぜひご相談ください。


次回予告

次回、第13回は**「契約書・規約の見直しポイント 仕入れ先、テナント、サービス利用」**をテーマにお届けします。多岐にわたる契約や規約には、知らず知らずのうちにリスクが潜んでいます。仕入れ、賃貸借、サービス利用など、日常業務に関わる契約のリーガルチェックの重要性とそのポイントを解説します。ご期待ください。


有限会社金城企画 代表取締役 荒瀧


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