2025年7月27日日曜日

第4回 従業員を「リスクマネージャー」に育てる - 誰でもできるヒヤリハット共有とマニュアル作成

こんにちは。有限会社金城企画 代表取締役の荒瀧です。当社はまもなく創業50周年を迎えます。これまで多くの企業様とともに、リスクマネジメントの現場を支えてまいりました。

さて、前回はリスクマップを基に、リスクに対する「4つの戦略」についてお話ししました。どんなに優れた戦略も、現場で働く従業員が理解し、実践しなければ意味がありません。今回は、リスクマネジメントを組織に浸透させるための鍵となる「従業員教育」について解説します。


第4回 従業員を「リスクマネージャー」に育てる - 誰でもできるヒヤリハット共有とマニュアル作成

飲食店のリスクマネジメントは、特定の担当者だけが担うものではありません。調理場からホール、アルバイトスタッフに至るまで、すべての従業員が「自分もリスクマネージャーである」という意識を持つことが不可欠です。従業員一人ひとりが日々の業務の中でリスクに気づき、共有し、行動に移すことで、組織全体の安全性が格段に向上します。

従業員を巻き込むための2つのポイント

従業員教育と聞くと、堅苦しい研修を想像するかもしれません。しかし、効果的な教育は、もっとシンプルで実践的なものです。

  1. 「ヒヤリハット」を共有する文化を作る 「ヒヤリハット」とは、重大な事故には至らなかったものの、一歩間違えば事故になっていた出来事を指します。これを共有する文化を作ることで、事故の芽を摘むことができます。

    • 報告のハードルを下げる: 従業員が「こんな些細なことで報告していいのかな?」と躊躇しないように、「どんなことでもいいから報告してほしい」と伝えましょう。報告用の簡単なシートや、共有ノートを用意するのも有効です。

    • 報告者を褒める: ヒヤリハットを報告した従業員を褒め、その行動を高く評価しましょう。「報告してくれてありがとう。おかげで事故を防げたよ」という一言が、次につながります。

    • 改善に活かす: 報告されたヒヤリハットに対し、具体的にどう改善したかを全員にフィードバックしましょう。「滑りやすい床に注意喚起のシールを貼りました」「期限切れ防止のため、食材の管理方法を見直しました」など、改善策が見えることで、従業員のモチベーションも高まります。

  2. 「生きたマニュアル」を全員で作る マニュアルは一度作ったら終わりではありません。現場の変化に合わせて更新され続ける「生きたマニュアル」であることが重要です。

    • マニュアルを共有ツールにする: 「こんな時どうすればいい?」という疑問が出た時に、マニュアルが答えを教えてくれる。全員がアクセスしやすい場所に置き、新しい知識や事例があればすぐに追記できるようにしましょう。

    • 写真や動画を活用する: 文字だけのマニュアルは読まれにくいものです。調理手順や清掃方法など、写真や短い動画を盛り込むことで、誰もが直感的に理解できるようになります。


ネクストアクション:明日からできること

  • 今日の終礼で「ヒヤリハット」を1つだけ共有してみることから始めてみましょう。全員が参加しやすい雰囲気を作り、「些細なことでもOK」であることを強調してください。

  • 既存のマニュアルを一つ取り上げ、従業員と一緒に見直してみるのはいかがでしょうか。「この手順、もっと分かりやすくできないかな?」「この部分はもう古くなっているね」といった意見交換が、より良いマニュアル作りに繋がります。

次回は、万が一の事故が発生した場合の初期対応と、情報共有の重要性についてお話しします。

2025年7月21日月曜日

第3回 リスクマネジメントの4つの戦略 - あなたは「予防」「対応」「軽減」「転嫁」どれを選ぶ?

こんにちは。有限会社金城企画 代表取締役の荒瀧です。当社はまもなく創業50周年を迎えます。これまで多くの企業様とともに、リスクマネジメントの現場を支えてまいりました。

さて、前回はリスクマップを作成し、お店に潜むリスクを「見える化」する重要性についてお話ししました。今回は、そのリスクマップを基に、具体的な対策を立てるための「4つの戦略」についてご紹介します。


第3回 リスクマネジメントの4つの戦略 - あなたは「予防」「対応」「軽減」「転嫁」どれを選ぶ?

リスクマップが完成したら、次に考えるべきは「そのリスクに対して、どう対処するか?」です。リスク管理には、大きく分けて以下の4つの基本的な戦略があります。

  1. 回避(Avoidance): リスクそのものを発生させないようにする戦略です。 例: 食物アレルギー対応に自信がない場合、特定のアレルゲンを含むメニューの提供を一時的にやめる。

  2. 軽減(Reduction): リスクが発生した場合の被害を最小限に抑えるための戦略です。 例: 従業員が転倒しないように、床を常に清掃し、滑り止めマットを設置する。食中毒を予防するために、調理器具の消毒を徹底する。

  3. 転嫁(Transference): リスクを第三者に移転させる戦略です。 例: 火災や食中毒が発生した場合に備え、賠償責任保険や火災保険に加入する。

  4. 受容(Acceptance): リスクの発生を許容し、何も対策を講じない戦略です。 例: 小さなクレームや、軽微な機器の故障など、発生頻度や影響度が低いリスクに対して、特に事前対策は行わない。

この4つの戦略を、リスクマップで特定したそれぞれのリスクに当てはめていきます。重要なのは、すべてのリスクを「回避」したり「軽減」したりすることは現実的ではないということです。経営資源には限りがあるため、優先順位をつけて最適な戦略を選ぶことが重要です。

ネクストアクション:リスクに最適な戦略を立てる

リスクマップで「可能性が高く、影響も大きい」と分類されたリスク(第2回の【エリア4】)から、戦略を考えてみましょう。

  • 食中毒のリスク: これは絶対に避けたい致命的なリスクです。予防策として「衛生管理の徹底」を従業員に周知・実行させることが必須です(軽減)。万一に備えて「食中毒保険」に加入しておくことも重要です(転嫁)。

  • 従業員の労務トラブル: 労働時間の管理は多くの飲食店で発生しやすいリスクです。勤怠管理システムを導入し、適正な労働時間を管理すること(軽減)でトラブルを予防します。

  • お客様の転倒・怪我: 頻繁に発生する可能性のあるリスクです。滑りやすい場所には注意喚起の掲示をしたり、定期的な床清掃を徹底したりする対策が有効です(軽減)。

このように、リスクごとにどの戦略が最も効果的かを考え、具体的な行動計画に落とし込むことが、リスクマネジメントを機能させる鍵となります。

次回は、これらの対策を「従業員教育」にどのように落とし込むかについて、詳しくお話しします。

2025年7月13日日曜日

第2回 リスクを見える化する「リスクマップ」の作り方

 こんにちは。有限会社金城企画 代表取締役の荒瀧です。当社はまもなく創業50周年を迎えます。これまで多くの企業様とともに、リスクマネジメントの現場を支えてまいりました。

さて、前回はリスクマネジメントを「守り」だけでなく「攻め」の経営戦略として捉えることの重要性についてお話ししました。今回は、その第一歩として不可欠な「リスクの見える化」について掘り下げていきます。


第2回 リスクを見える化する「リスクマップ」の作り方

リスクマネジメントを始めるにあたり、「何から手をつけて良いか分からない」と感じるかもしれません。そうした時に非常に役立つのが、「リスクマップ」です。これは、お店に潜むリスクを一覧化し、優先順位をつけて整理するための強力なツールです。

リスクマップを作ることで、漠然とした不安が具体的な課題へと変わり、どこに経営資源を集中させるべきか明確になります。

飲食店におけるリスクを洗い出す

まずは、店舗にどのようなリスクがあるかを洗い出すことから始めましょう。以下のような観点で、従業員全員で話し合う機会を設けてみてください。

  • お客様に関するリスク: 食中毒、アレルギー、お客様の転倒や怪我、クレーム、SNSでの炎上など。

  • 従業員に関するリスク: 労働災害、従業員間の人間関係トラブル、ハラスメント、労務問題など。

  • 運営に関するリスク: 食材の品質劣化、設備の故障(冷蔵庫、エアコンなど)、火災、食券機のトラブルなど。

  • 外部環境に関するリスク: 近隣のトラブル、災害(台風、地震など)、風評被害など。

ネクストアクション:リスクマップを作成する

リスクを洗い出したら、次のステップとしてリスクマップを作成します。これは、「発生する可能性(縦軸)」「発生した場合の影響度(横軸)」の2軸でリスクをマッピングするシンプルな方法です。

  • 【エリア1】(可能性低、影響度小): 軽微なリスク。日々の注意で十分対応可能です。

  • 【エリア2】(可能性低、影響度大): 発生頻度は低いものの、一度起きると致命的。例えば火災や大規模食中毒など。事前の準備が鍵となります。

  • 【エリア3】(可能性高、影響度小): 頻繁に発生する小さなリスク。転倒や軽微なクレームなど。これらを減らすことで日々の業務効率が上がります。

  • 【エリア4】(可能性高、影響度大): 最も優先して取り組むべきリスク。例えば、特定の食材によるアレルギー対応ミスや、従業員の労務トラブルなど。

このようにマッピングすることで、どのエリアのリスクから対策を講じるべきか一目瞭然です。 当社では、貴社に合ったリスクマップの作成をサポートしています。お困りの際はぜひご相談ください。

次回は、このリスクマップを基に、リスクに対してどのような戦略を立てるべきかについて詳しく解説します。

2025年7月6日日曜日

第1回:なぜ今、リスクマネジメントが必要なのか?

 

こんにちは。有限会社金城企画 代表取締役の荒瀧です。当社はまもなく創業50周年を迎えます。これまで多くの企業様とともに、リスクマネジメントの現場を支えてまいりました。

さて、今回から「飲食店におけるリスクマネジメントの基礎と心構え」と題して、全5回の連載をスタートします。


第1回 リスクマネジメントは「守り」ではない? - 攻めの経営につなげるための第一歩

飲食店経営者の皆様は、日々の業務の中で多くの「リスク」に直面していることでしょう。 食中毒、火災、従業員の労務トラブル、SNSでの炎上など、挙げればきりがありません。これらのリスクにどう対処すべきか、頭を悩ませている方も少なくないのではないでしょうか。

しかし、リスクマネジメントとは単に「トラブルを未然に防ぐための守りの活動」だと考えていませんか? 実は、リスクマネジメントを正しく理解し、実践することで、お客様からの信頼を高め、従業員のモチベーションを向上させ、ひいては企業の成長を加速させる「攻めの経営戦略」へと転換させることができます。

リスクとは何か?

「リスク」と聞くと、ネガティブな側面ばかりを想像しがちですが、本来は「将来の不確実性」を意味します。この不確実性には、マイナスの影響(例:食中毒)だけでなく、プラスの影響(例:新しいメニューがヒットし、売上が大幅に増加)も含まれます。

リスクマネジメントとは、この「不確実性」を特定し、それがもたらす影響を予測し、コントロールする一連のプロセスです。これを経営に取り入れることで、トラブルを未然に防ぎつつ、将来のチャンスを掴む準備ができるのです。

ネクストアクション:リスクマネジメントの第一歩を踏み出すために

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか? まずは、ご自身の飲食店に潜むリスクを「見える化」することから始めましょう。

  1. 「リスク」の洗い出し 従業員全員で、日々の業務で「ヒヤリ」としたこと、「ハット」したことを話し合う場を設けてみましょう。「お客様が床で滑りそうになった」「従業員が食材の消費期限を見落としそうになった」など、どんなに小さなことでも構いません。

  2. リスクマップの作成 洗い出したリスクを「発生する可能性」と「発生した場合の影響度」で分類し、リスクマップを作成してみましょう。これにより、どのリスクに優先的に取り組むべきかが一目で分かります。 有限会社金城企画では、このようなリスクマップ作成のお手伝いをすることも可能です。もしご不安な点があれば、お気軽にご相談ください。

  3. 情報共有の仕組み作り ヒヤリハットやリスクを誰もが気軽に報告できる仕組みを整えましょう。口頭での報告だけでなく、メモや共有シートなど、記録に残すことで、組織全体の財産となります。

今回の連載が、皆様の飲食店経営におけるリスクマネジメントの第一歩となることを願っています。 次回は「リスクの見える化」について、さらに詳しくお話しします。どうぞご期待ください。

第18回 食中毒発生!緊急時の初動対応と風評被害対策

​ こんにちは。有限会社金城企画 代表取締役の荒瀧です。当社はまもなく創業50周年を迎えます。これまで多くの企業様とともに、リスクマネジメントの現場を支えてまいりました。 さて、飲食店経営において、どれだけ衛生管理を徹底していても「食中毒」のリスクをゼロにすることはできません。...